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「真景累ヶ淵」登場人物とあらすじ(その7) [落語]

7.お累の死

登場人物:

深見新吉(深見新左衛門の次男)

お累(新吉の妻)

与之助(新吉とお累の子)

三蔵(お累の兄で羽生村の質屋の主)

和尚(法蔵寺の住職)

惣右衛門(羽生村の名主)

お賤(惣右衛門の妾)

作蔵(馬方)

与助(羽生屋の奉公人)

男(村人)

あらすじ:

新吉が戻るとお累は産気づく。産まれたのは玉のような男の児・・・、ではなく、小児の癖に鼻がいやにツンと高く、目は細いくせにいやにこう大きな目で、頬肉が落ちて痩せ衰えた骨と皮ばかりの男の児。帰りの道中で夢に見た兄新五郎の顔に生き写しで、新吉はぞっと身の毛立った。新吉は気が滅入り、食も進まない。

心配した三蔵は、姑と一緒にいるのは気詰まりだろうからと、羽生村の北坂という処に一軒家を建て、新吉一家をそこに住まわせてくれた。生活費は三蔵方で過不足なく仕送ってくれるので、稼ぎのない新吉はぶらぶらしている。

翌年、寛政8年の2月3日、新吉が法蔵寺へ参詣に行くと、和尚がつくづく新吉の顔をみて、「お前は死霊の祟りのある人で、病気は癒らぬ。・・・無縁の墓の掃除をして水を上げ、香花を手向けるのは大変な功徳になる」というので、新吉は法蔵寺に通ってこれを続けることに。3月27日、新吉が例の通り墓参りに出掛けると、御年21、2という婦人が馬方の作蔵と一緒に這ってきた。婦人の名はお賤と言い、羽生村の名主・惣右衛門の妾だった。累(かさね)の墓に願掛けに参っていたところ、新吉と出会う。お賤は江戸の出身で、貸本屋時代の新吉に見覚えがあるという。新吉もお賤のことを覚えていて、久しぶりの再会に、以来、お賤のところへ出入りするようになった。お賤の家で名主・惣右衛門とも懇意になり、小遣いやら、帯やらをもらうなどの世話になった。

お賤は調子がよし、酒が出ると一中節(いっちゅうぶし)でもやるから、新吉はなお近しく通う。この様子に村の者も次第に勘づくように・・・。これに心配した三蔵だったが、名主様が関わっており、知れてはならないということで、お累に意見を言わせることに。しかし、新吉は腹を立て、お累を打ち打擲するように。人の善いお累は段々と病気になり、癪ということを覚えて、只おろおろ泣いてばかりに。

稼ぎのない新吉は家のものを洗いざらい持ち出しては質に置き、お累の体調が悪くても、赤ん坊の虫が発(おこ)っても薬一服飲ませる料簡もない不人情ぶりに、三蔵は「金を遣るから手を切ってしまえ」と提案。しかし、お累は「たとえ親や兄弟に見捨てられても夫に附くのが女の道・・・」と言い切るので、「そうなれば兄妹の縁を切る」と30両の金をお累に渡す。

一方の新吉は、その金をもって遊び三昧。只、不憫なのはお累。赤ん坊にはピイピイ泣き立てられ、糸のように痩せても、薬一服飲ませてもらえない。三蔵の縁が切れているので、村の者も見舞いに来なかった。

ある日、三蔵は奉公人の与助を連れて、新吉の留守を狙ってお累の様子をうかがいに来たところ、日暮れ方の薄暗い部屋の中に、煎餅のような薄い布団を一枚敷いて、その上へ赤ん坊を抱いてお累が寝ていた。蚊が多いにもかかわらず、蚊帳はなし、蚊燻しもなし。蚊帳を釣ってやるからどこにあるかと三蔵がたずねると、蚊帳はおろか、あらゆる物は新吉が持ち出して質に入れてしまったという。三蔵は急いで与助に蚊帳を取りに帰らせ、ぼろぼろの行燈を探し出し、灯りをつけたが、今にも死のうかというほど痩せ衰えたお累の姿をみて愕然とする。お累は利かない体を起こし、兄に逆らった不孝を詫びた。ただ、今、新吉と別れると、男の子は男に付くものだから、与之助は置いて行けと新吉が言うのだという。赤ん坊を見殺しにはできないので、せめて、この子が4、5歳になるまではこのままにして欲しいという。「それではお累の体が持つまいに」と三蔵は新吉を憎んだ。与助が持ってきた蚊帳を釣って、持ち合わせの3両を小遣いに置いて、三蔵と与助は帰っていった。

入れ違いに新吉が作蔵を連れて帰ってきた。一文無しで、遊ぶ金がないため、仕方なく戻ってきたのだ。すると、家の中に立派な蚊帳が釣ってある。これを質に持って行けば2~3両にはなるだろうと、取り外しにかかる新吉。目が覚めたお累が、赤ん坊のためにこの蚊帳だけは持って行かないようにと懇願するが、新吉は聞く耳を持たない。三蔵が置いていった3両があるので、これをお持ちくださいと言うと、新吉は3両を手にした上に、それだけでは足りないと、蚊帳も持って行こうとする。お累が蚊帳にすがりつくのを力づくで引っ張ったので、お累の生爪がはがれて蚊帳に突き刺さっていた。蚊帳を肩に掛けて出て行く新吉を追って、お累が出口へ這い出して「新吉さん」というと、

新吉「何をいやァがる」

とツカツカと立ち戻ってきて、脇に掛かってあった薬缶の煮え湯をかけたものだから、与之助の顔へかかり、赤ん坊は絶命。持っていた薬缶を投げつけると、お累は頭から沸湯を浴びせられてしまった。

蚊帳を金にした新吉は作蔵と二人でお賤の宅へしけ込み、こっそり酒盛りをしていた。生爪の一件やら、赤ん坊のことで、当然とはいえ盛り上がらない。作蔵は寝てしまい、続いてお賤も眠りについた。外では雨がどうどうと車軸を流すように降ってきた。かれこれ八ツ時という時刻に、表の戸をトントンたたく音。お賤を起こし、戸を開けると、そこにはびしょ濡れのお累が立っており、手には赤ん坊を抱いていた。

お累「この坊やアだけは今晩夜が明けないうち法蔵寺へでも願って埋葬(ともらい)を致したいと存じます。・・・お賤さん、私が申しますと宅(やど)が立腹致しますから、どうかあなたから、今夜だけ帰って子供の始末を付けてやれと仰って」

お賤が新吉に帰るように促すと、新吉は怒り出し、利かない体のお累お胸ぐらを突き飛ばした。泥だらけになり這い上がるところをまた突き飛ばし、ピタリと戸を閉めてしまったから、表ではお累がワッと泣き倒れた。

その晩、新吉は寝付かれないでいたところ、突然、作蔵がうなされ出した。夢でもみているのかと、

新吉「胆を潰さァ、冗談じゃァねえ寝惚けるな・・」

作蔵「寝惚けたのじゃァねえよ。・・・あそこに寝ているとお前、裏の方の竹をぶっつけた窓がある。あすこのお前雨戸を明けて、どうして這入ったかと見ると、お累さんが赤ん坊を抱いて、ずぶ濡れで、痩せた手を己の胸の上へ載せて、よう新吉さんを帰しておくんなさいよといって、己が胸を押圧(おっぺしょ)れる時の、怖えの怖くねえの・・」

新吉「夢をみたのだ」

作蔵「夢でねえよ、あすこのところに・・・」

と指さした場所から男の声。

男「新吉さんはこちらにお出でなさいますか。お累さんが飛んだことになりましたから、方々探していたんだ、直に帰って下せえ」

致し方なく夜明け方に帰ってみると、お累は草刈鎌で喉笛を掻切って、片手に子供を抱いたなり死んでいた。

以下、その8へ続く・・・


「真景累ヶ淵」登場人物とあらすじ(その6) [落語]

6.勘蔵の死~迷いの駕籠

登場人物:

深見新吉(深見新左衛門の次男)

お累(新吉の妻)

三蔵(お累の兄で羽生村の質屋の主)

勘蔵(深見家の元・門番、新吉の伯父)

男(勘蔵が住む長屋の住人)

おかね(上記男の妻)

婆(勘蔵が住む長屋の住人)

駕籠屋

深見新五郎(新左衛門の長男、新吉の兄)

あらすじ:改心した新吉はお累に尽くし、その夫婦仲の良さに三蔵も感心していた。ある日、江戸から早飛脚があり、伯父の勘蔵が危篤状態とのこと。新吉以外に身寄りはなく、新吉にとってもたった一人の伯父。66歳と年も年だから、死に水を取るがよいと、三蔵は多分の手当を新吉に与えてくれた。

江戸下谷大門町にある勘蔵の長屋では、住人たちが勘蔵の世話をしてくれていた。勘蔵は新吉のことばかり噂をしていて、とても逢いたがっているという。

住人「勘蔵さん、新吉さんが来たよ」

勘蔵「有難え有難え、ああ待っていた、能く来た」

新吉「伯父さんもう大丈夫だよ・・・」

勘蔵は長屋の住人たちを帰し、新吉と2人になると改まった態度になり、形見を渡しておきたいという。汚れた風呂敷包の中から取り出されたものは1枚の迷子札だった。そこには深彫で「小日向服部坂深見新左衛門二男新吉」とあった。驚く新吉に、勘蔵は自分が深見家の門番であったこと、新吉は深見家の二男であること、兄の新五郎が行方不明であること、深見家はお取りつぶしになってしまったこと等々、これまでの経緯を説明する。真実を隠していたのは新吉がまっすぐに育って欲しいと思ってのこと。主従の関係にありながら、これまで厳しくしてきたことなどをどうかゆるして欲しいという。

新吉「そうかい、私は初めて聞いたがねえ、だがねえ、私が旗本の二男でも、家が潰れて三歳の時から育ててくれれば、親よりは大事な伯父さんだがら、・・・その恩は忘れませんよ・・・」

勘蔵は安心したように眠るように臨終した。小石川の菩提所に野辺送りし、供養した後、羽生村への帰路、駕籠屋の様子がおかしい。新吉は「亀有まで遣って、亀有の渡を越して新宿(にいじゅく)泊まりとしますから、四ツ木通りへ出る方が近いから、吾妻橋を渡って小梅へ遣ってくんねえ」と頼んだが、雨の降る暗闇の中、どういうわけか駕籠は同じ道をぐるぐる回るばかりで目的地へ到着しない。駕籠をあきらめ、小塚ッ原から一人で歩きはじめた新吉に一人の男が声をかけてきた。

男「おい若えの、其処へ行く若えの」

新吉は怖々と透かしてみると、年の頃38、9の色の白い鼻筋の通って眉毛の濃い、月代(さかやき)がこう森のように生えて、牢内から出たばかりという姿で、びっこを引きながらヒョコヒョコ近づいてくるので驚いたのなんの。

男「これは貴公が駕籠から出るときに落としたのだ、これは貴公様のか」

それは新吉の迷子札だった。

男「深見新左衛門の二男新吉はお前だの」

新吉「へエ私で」

男は新吉の兄の新五郎だった。お園を殺して、逃亡したが、お縄にかかり、長い間牢獄に入っていたという。牢を破って隠れ遂せて2年になるのだという。

新吉も近況を説明すると、新五郎が怒りだした。新吉が縁付いた三蔵は、新五郎がいた下総屋の元番頭で、お園殺しを訴人した憎き男なので、そんなところには帰るなという。

新五郎「永え浮き世に短けえ命、己と一緒に賊を働き、栄耀栄華の仕放題を致すがよい、心を広く持って盗賊になれ」

新吉「これは驚きました。兄上考えてご覧なさい。世が世なれば旗本の家督相続もする貴方が、盗賊をしろなぞと弟に勧めるということがありましょうか・・・。三蔵はそんな者ではございませぬ」

新五郎「手前女房の縁に引かされて三蔵の贔屓をするが、その家を相続して己を仇と思うか、サアそうなればゆるさぬぞ」

逃げようとする新吉だったが、道がぬかるんでいて転んでしまう。新五郎は上から押さえて、短刀(どす)で新吉の喉笛をズブリ・・・。

新吉「情けない兄さん・・・」

駕籠屋「モシモシ旦那・・・、大層うなされていなさるが・・・」

今のは夢であったかと新吉。今、どの辺かと尋ねると、ちょうど小塚ッ原のあたりだという。雨も上がったので、小用を足そうと降りると、そこはお仕置き場で、二ッ足の捨て札に獄門の次第が書いてある。始めに「当時無宿新五郎」と書いてあるので驚く新吉。怖々と細かに読み下すと、今夢に見た通りの罪状で、兄新五郎は処刑されたとあった。

以下、その7へ続く・・・。


「真景累ヶ淵」登場人物とあらすじ(その5) [落語]

5.土手下の甚蔵~お累の婚礼

登場人物:

深見新吉(深見新左衛門の次男)

土手下の甚蔵(羽生村のバクチ打ち)

清(せい)(甚蔵の知人の男)

農夫(羽生村の農民)

太左右衛門(羽生村の農民)

三蔵(三右衛門の息子で羽生村の質屋の主)

お累(三蔵の妹でお久の伯母)

母(三蔵とお累の母)

せな(三蔵の家の下女)

石田作右衛門(羽生村の顔役)

あらすじ:

新吉が訪ねた一軒家からは清(せい)という男が出てきて、そこは自分の家ではないという。家主は甚蔵という博打打ちで、何日も帰って来ないこともザラとのこと。自分は雨宿りでここにいるのだという。江戸者が近傍で宿を取るにしても水街道までいかなければ無いので、ここへ泊まっていけばよいという。

そこへびしょ濡れの甚蔵が帰ってきた。新吉に気がつくと、何もない家だが泊まっていけという。そして土手のところで人殺しがあったことを語り始めた。

清が帰ったあとで、甚蔵は、自分もかつては江戸にいたのだといい、田舎の人間とは話が合わないのだという。また、若い新吉が江戸からこの地に来たのには訳があるのだろうと、この家の留守番をしていてくれれば助かるといった話をする。そして、自分には身寄りがないので、兄弟分になろうという。酒はないので、番茶で兄弟分の杯を交わしたところで・・・

甚蔵「兄弟分になったからには兄に物を隠しちゃいけねえぜ」

新吉「ヘエヘエ」

甚蔵「今夜土手で女を殺したのはお前だのう」・・・

新吉「 ヘエ、どうも、ち・・・ちっとばかり、こ・・・殺しました」

甚蔵「ちっとばかり殺したってことがあるか」

それでいくら金を取ったのかと甚蔵が聞いてくるので、殺した女は自分の女房であること、自分は豊志賀に祟られていることなど、これまでの経緯を新吉は説明した。

甚蔵「薄気味悪いことばかり言いやがる。・・・それじゃあ一文無しか」

新吉「ヘエ~」

その翌日、甚蔵の家で休憩中の農夫たちの会話を新吉は耳にする。この日は三蔵どんのところで法事があり、殺されたお久の初七日で、法蔵寺に葬られたという。無尽のまじないにそういう仏様に線香をあげるとよく当たるのでと農夫たちに場所をたずねると、法蔵寺は「累伝説」の累(かさね)の墓がある寺ときけば分かるからとの説明を受ける。

法蔵寺でお久の墓を探していると、そこに下女を連れた美しい娘がいた。娘は死んだお久に似ていると思ったら身内の者だという。下女に自分は江戸から出てきたことを話すと、娘もかつて江戸で奉公をしていて、田舎に帰ってきたものの、話し相手がいないのだという。質屋の三蔵のところにいるのでぜひ遊びに来いとのこと。娘も、色白の新吉に一目惚れ。そこへ一匹のヘビが足下に現れ、驚いた娘は新吉の手にすがりつく。そして見つめ合う2人。

三蔵の家へ甚蔵が訪ねてきた。質に取ってもらいたい品物があるという。巻いてあった手ぬぐいを取ると錆び付いた鎌であった。これで20両を用立ててもらいたいという。三蔵は「冗談じゃない」と一蹴するが、甚蔵は引かない。その鎌はお久殺しに使われたもので、柄には丸に「三」の字の焼き印がしてあり、三蔵のところの鎌なのだ。この鎌が他へ知れたらまずいだろうというのだ。仕方なく三蔵は甚蔵に20両を渡した。

その晩のこと、三蔵の妹のお累(るい)が寝ている座敷にヘビが現れた。驚いたお累が駆け出したとたん、母親がそれを止めようとしたはずみで、囲炉裏に掛かっていた薬缶の熱湯をかぶり、お累は顔に大火傷を負ってしまう。

以来、お累は食事ものどに通らない落ち込み様に。火傷だけが原因ではないと感じた三蔵は下女のおせなから法蔵寺での一件を聞き出す。お累は新吉に惚れてしまっているという。村の口利きである石田作右衛門に頼み、甚蔵の処へ掛け合いにやることに。

作右衛門「年齢22、3の若え、色の白え江戸者のことで参った」

甚蔵「旦那、堪忍しておくんなせえ、田舎珍しいから、柿なんぞをピョコピョコ取って喰いかねねえ奴で」

作右衛門「誰が柿ィ取ったって」

三蔵の妹・お累が新吉に惚れてしまい、内儀(かみさん)になりたいと言っていることを伝えると、そいつは有難いと甚蔵。ただし、新吉には大きな借金があるので、それをきれいに片づけてもらえたらという。額を聞くと30両ばかりというが、もちろんこれは甚蔵の出任せ。作右衛門は三蔵にそのことを伝えると、

三蔵「相手が甚蔵だからそのくらいの事はいうに違いない。よろしい、その代わり、土手の甚蔵が親類のような気になって出這りされては困るから」ということで、30両を手切れ金代わりに渡すことで話が決着。作右衛門の媒酌で、11月3日に婚礼が行われた。ところが、いつまでたってもお累が出てこないので新吉が心配していると、屏風の外の行燈のところに鬱いで向こうを向いているお累がいた。訳を聞くと、

お累「こんな処へ来て下すって、誠に私はお気の毒様で、先刻から色々考えておりました。・・・私のような者だから、もう三日もいらっしゃると、愛想が尽きて直きお見捨てなさろうと思って、そればっかり私は心に掛って、悲しくて先刻から泣いてばかりおりました。」

新吉「そんな詰まらんことを言って、・・・お前の方で可愛がってくれれば何処へも行きません、見捨てるなどと此方(こっち)が言う事で」

お累「だって私はね、貴方、こんな顔になりましたもの」

その顔は法蔵寺で見たのとは大違い、半面火傷の傷、額から頬へ片鬢抜け上がり、あまりに人相が変わっていたので、新吉は身の毛が立った。しかし、つくづく考えてみれば、これも豊志賀の祟りなのかと新吉。

屋根裏で物音がするのでヒョイとみると、縁側の茅葺き屋根の浦の弁慶というものに草刈鎌が掛けてあり、そこに屋根裏を伝ってきたヘビが纏い付いたかと思うと、ヘビはポツリと二つに切れて縁側へ落ちた。驚いたお累は新吉にすがりつく。その手をとって新枕。悪縁とはいいながら、たった一晩でお累は身重となった。

以下、その6へつづく・・・


「真景累ヶ淵」登場人物とあらすじ(その4) [落語]

4.お久殺し

登場人物:

深見新吉(深見新左衛門の次男)

お久(小間物屋・羽生屋三五郎の娘)

土手下の甚蔵(羽生村のバクチ打ち)

あらすじ:

豊志賀の書置は、慄える手で書かれ、「心得違いにも、弟か息子のような年下の男と深い仲になり、これまで親切を尽くしたが、その男に実意が有ればの事、私が大病で看病人も無いものを振り捨てて出るようなる不実意な新吉と知らずに、これまで亭主と思い真実を尽くしたのは、実に口惜しいから、たとえこのまま死ねばとて、この怨は新吉の身体に纏って、この後女房を持てば七人まではきっと取り殺すからそう思え」とあった。新吉はこれをみてゾッとするほど驚いたが、他人に見せることもできず、懐へしまっておくのも気味が悪いので、湯灌の時にこっそりと棺桶の中に隠して小石川戸崎町の清松院という寺へ葬った。

伯父の勘蔵から墓参りを欠かさぬよう強く言われるものの、墓所へ行くのは怖いので、新吉は夜は避けて明るい昼間ばかりを選んで墓参りに往っている。ある日のこと、豊志賀の墓に誰かが先に来ているのでみると、羽生屋の娘のお久であった。 お久は7日のたびに師匠である豊志賀の墓参りを続けていたのだという。

久「新吉さんいい処でお目に掛かりました」

お久の母は継母で、豊志賀があんなに悋気らしい事を言って死んでいったのは、新吉とお久の間に何か関係があるに違いないと言っては責折檻をされているという。あまりに辛いので、下総の伯父のところに一緒に逃げて欲しいとの事。新吉は怖いのも忘れてその気になり、墓場から駆け落ちすることに。

その晩は遅いので松戸で一泊。翌日、古賀崎の堤へかかり、流山から花輪村鰭(ひれ)ヶ崎へ出て、渡し船に乗って水街道へかかり、遅い時刻になったがもうすぐ羽生村というところ。麹屋という店で夜食をして道を聞くと、これこれで渡しを渡れば横曽根村。土手沿いに回っていけば羽生村へ出るという。そこは昔、累(かさね)が殺されたという伝説があるところで累ヶ淵と呼ばれる場所。

お久の手を引いて行くと、この日は8月27日の晩で、鼻をつままれるのも知れないという真の闇、殊に風が吹いて顔へポツリと雨の滴。遠くからゴロゴロという雷鳴が聞こえ、ピカリピカリと雷光が・・・。怖がるお久だったが、土手を廻って下りさえすれば直に羽生村と思い進もうとすると、土手の上からツルツルと滑ってしまい、お久は何かでズブリと膝を切ってしまった。大層血が出ている。そこには草刈鎌が置いてあり、その上へお久は転んでしまったのだ。新吉は手ぬぐいで縛ってお久の応急手当をし、包を背負っているので負うことはできないが、肩へつかまらせてお久を連れて歩き出す。

お久「有難う新吉さん、・・・これから所帯を持って夫婦中能く暮らせれば、これほど嬉しいことはないけれども、お前さんは男ぶりは好し、浮気者という事も知っているから、ひょっとして外の女と浮気をして、お前さんが私に愛想が尽きて見捨てられたらその時はどうしようと思うと、今から苦労でなりませんわ」

新吉「何だね、見捨てるの見捨てないのと、昨夜(ゆうべ)初めて松戸へ泊まったばかりで」

お久「いいえ貴方は見捨てるよ、見捨てるような人だもの」

新吉「お前の伯父さんを頼って厄介になろうというのだから、決して見捨てる気遣いはないわね・・・、なぜそう思うんだね」

お久「だって、新吉さん私はこんな顔になったよ」

お久の綺麗な顔の眼の下にポツリと1つの腫物ができたかと思うと、たちまち腫れ上がり、まるで死んだ豊志賀の通りの顔になった。暗闇の中で、顔ばかりがありありと見えた新吉は、怖い三昧、懸命にこれを鎌で打ちつけた。はずみとはいいながら、逃げようとしたお久の咽喉(のどぶえ)に掛かり、お久は草をつかんで七転八倒の苦しみ。「ううン恨めしい」という一声で息が絶えた。

あたりはドウドウという車軸を流すような大雨で雷鳴も激しく轟き渡る。この場から逃げようとした瞬間、新吉はズルリと土手から滑ってボッサカの脇に落っこちた。すると、ボッサカの中から頬被りをした男がニョコリと立ち上がったので新吉は驚いたのなんの。

この男は土手下の甚蔵という羽生村のならずもので、小博打をしているところに手が入り、そこを逃げ出して、追っ手から逃れるためにボッサカの中に隠れていたのだった。

甚蔵「この泥棒」

新吉は這々の体で逃げ出し、どこをどう逃げたか一軒の茅葺き屋根の家に明かりがついているのを見つけ、助けを求めて住人を叩き起こした。しかし、その家は甚蔵の家だった・・・。

以下、その5へつづく・・・


「真景累ヶ淵」登場人物とあらすじ(その3) [落語]

3.豊志賀の死

登場人物:

豊志賀(皆川宗悦の長女)

深見新吉(深見新左衛門の次男)

勘蔵(元・深見家の門番)

お久(小間物屋・羽生屋三五郎の娘)

鮨屋(蓮見鮨の大将)

女(蓮見鮨の女将)

駕籠屋

善六(豊志賀が住む長屋の住人)

彦六(同上)

あらすじ:

皆川宗悦の次女・お園の死から19年後。姉の志賀は御年39となり、富本の師匠として豊志賀を名乗っていた。お園と同様、豊志賀も男嫌いで堅いという評判で、この師匠なら安心ということで大家(たいけ)の娘も大勢稽古にやってくる。男は来ないのかというと、これが逆で、堅い女性の師匠の下には妙に男が集まるという・・・。深見新左衛門の次男の新吉もそんな男の一人であった。

新吉は御年21になっていた。元・深見家の門番である勘蔵(現在は新吉の伯父ということになっている。新吉は自らの出自を知らされずに育っていた。)のところでぶらぶらしていたが、元々が芸事が嫌いではなく、伯父のところにいて嫌みを言われるより、豊志賀の師匠のところにいる方が面白い。色々と手伝いなどをするうちに、師匠に気に入られ、食客(いそうろう)として、師匠宅の2階に寝泊まりするようになっていた。これではどうみても情夫だ。

堅いと評判の豊志賀だったが、新吉と深い仲になると、大勢いた弟子達は一人去り、二人去り・・・。残ったのは小間物屋・羽生屋三五郎の一人娘のお久だけとなってしまった。

お久は御年18で愛嬌のある別嬪さん。新吉の顔を見てはにこにこ笑い、新吉もうれしいからニヤリと笑う。その様子に豊志賀は嫉妬心が沸き、お久への指導が厳しくなる。しかし、お久は芸が上がると思うので師匠の指導に従う。また、お久は母親に死なれており、家では継母に苛められるため、師匠にどんなに辛くされても稽古にやって来た。

こんな調子なので悋気の焔(ほむら)の絶えない豊志賀の眼の下にポツリと訝(おか)しな腫物ができてしまった。腫れはどんどん大きくなり、紫色に少し赤味がかかり、ただれて膿がジクジク出る。眼も一方が腫れ塞がって、その顔の醜(いや)なことというものは何ともいいようが無い。

豊志賀は体調も崩し、食も喉へ通らなくなって、ますます痩せてしまい、骨と皮のように。そして顔の腫物は大きくなるばかり。けれども、新吉は師匠の世話になったことを思って、よく親切に看病をした。

豊志賀「新吉さん、私はね、どうも死にたいよ。私のようなこんなお婆さんを、お前がよく看病しておくれで、私はお前のような若い綺麗な人に看病されるのは気の毒だ気の毒だと思うと、なお病気が重なって来る。私が死んだらさぞお前が楽々すると思うから・・・。私が早く死んだら、お前の真底から惚れているお久さんとも逢われるだろうと思うからサ」

新吉「何を言うのだよ・・・」

夜は夜で、豊志賀は「新吉さん、新吉さん」と同じようなことを言う。寝付いたので疲れを休めようとごろりと寝ようとすると、また、「新吉さん、新吉さん、私がこんな顔で・・・」。

若い新吉は何を見てもこわがって尻餅をつくという臆病な性(たち)。不人情のようなだがとてもここにはいられない。大門町へ行って伯父の勘蔵に相談して、いっそのこと下総の羽生村の知り合いのところに行ってしまおうかなどと色々なことを考えているうちに、豊志賀は寝付いた様子。その間に新吉はふらりと外へ。茅町から片側町へかかるところで向から提灯を点けて来たのはお久。日野屋へ買い物に行くところだという。

新吉「師匠の枕元でお飯を食べると、おちおち咽喉へ通りませんから、何処かへ往ってお飯を喫(た)べようと思うが、一人では極まりが悪いから一緒に往っておくんなさいませ」

2人は蓮見鮨へ向かう。鮨屋では二階の四畳半の部屋に通された。2人が差し向かいで食事をするのは初めてで、色々と話をするうちに、お互いに下総に親類がいることが判明。お久は継母に苛められており、下総の伯父の三蔵に手紙を出して相談をしたら、下総に来てしまえとのこと。なので事によったら下総へ行きたいとおもっているとのこと。

お久の伯父のいるのは下総の羽生村で、ここは「累(かさね)伝説」のあるところだという話になり、新吉は自身の今の身の上も「累伝説」に近いものがあると、最近の豊志賀の気味の悪さを語る。よし、2人で下総へ逃げよう。すると、・・・

お久「新吉さん、ほんとうに私を連れて逃げてくださいますか」

新吉「ほんとうとも」

お久「豊志賀さんが野倒死にになっても?」

新吉「本当に連れて行きます」

お久「ええ、お前さんという方は不実な方ですねえ」

お久の綺麗な眼の下にポツリと一つ腫物が出来たかと思うと、見る間に紫だって腫れ上がった。新吉は驚いたのなんの。這々の体で勘蔵のところへ駆け込んだ。しかし、そこには一足早く利かない体の豊志賀が来ていて、新吉とのこれまでの経緯を説明。新吉との縁はフッツリ切って、これからは赤の他人とも、姉弟とも思って、死に水だけでも取ってもらいたいという。

新吉「お前先刻何処かの二階へ来やアしないかえ」

豊志賀「いいえ」

すると、さっきのお久の顔が腫れたのは気のせいだったのか?勘蔵に説教をされて新吉は豊志賀を送っていくことに。病人なので駕籠屋を呼び、豊志賀がそこに乗り込んだとき、「新吉さんはこちらですか」との騒がしい男の声。豊志賀の住む長屋の住人・善六だった。豊志賀が亡くなったので早く来て欲しいという。駕籠の中をのぞくと豊志賀の姿はなかった。新吉はぶるぶる震えて「南無阿弥陀仏・・・」。

新吉は伯父の勘蔵とともに七軒町にある豊志賀の長屋へ向かった。早桶をあつらえ、湯灌をする事になって蒲団を上げようとすると、そこに豊志賀の書置が・・・。

以下、その4へつづく・・・。


「真景累ヶ淵」登場人物とあらすじ(その2) [落語]

2.深見新五郎~松倉町の捕り物

登場人物:

深見新左衛門(小日向服部坂の旗本)

その奥方(新左衛門の妻)

深見新五郎(新左衛門の長男)

深見新吉(新左衛門の次男)

黒坂一斎(市ヶ谷の一刀流師範)

お熊(深川網打場の女)

勘蔵(深見家の門番)

按摩A

按摩B(皆川宗悦の亡霊)

座光寺源三郎(本所北割下水の旗本)

おこよ(女太夫)

梶井主善(浅草竜泉寺の易者)

諏訪部三十郎(旗本)

下総屋惣兵衛(谷中七面町の質屋の主)

きわ(惣兵衛の妻)

お園(宗悦の次女)

勇治(深見家の元下男、松倉町在住だがすでに死去)

春(勇治の娘)

森田金太郎(春の亭主、石河伴作という旦那衆の手先)

富蔵(捕り物方)

勝蔵(捕り物方)

あらすじ

深見新左衛門が皆川宗悦を殺したことは誰にも分からなかったが、新左衛門の奥方は「ああ宗悦は憫然(かわいそう)な事をした」と思い悩む。翌年には神経の病にかかってしまい、乳も出なくなってしまった。乳母を置く余裕もないため、門番の勘蔵に二歳になる次男の新吉を抱いて前町まで乳をもらいにいかせるというありさまであった。

市ヶ谷にて一刀流の剣術指南をしており、のちに仙台侯のお抱えになる黒坂一斎の内弟子となっていた長男の新五郎。御年19歳。これを呼び寄せて、病人の看病にあたらせたが、どうにも手が足りない。

殿様の新左衛門は相変わらず酒浸りで、仲働きの女を置くことに。深川網打場の者で名はお熊。御年29歳で、「美女(よいおんな)ではないが、色の白いぽっちゃりした少し丸形のまことに気の利いた、苦労人の果と見え、万事届きます」。お熊は妾となり、屋敷での態度も大きくなる。とうとう新五郎は家出をしてしまうことに。そしてお熊は殿様の子を懐妊する。

奥方の病状はますます悪くなり、体に差し込むような痛みを訴えるように。その年の12月、殿様は勘蔵に鍼医を呼ぶように命じると、ちょうど外に按摩(按摩A)の笛の音が・・・。一時しのぎの鍼ではあったが、痛みはおさまり、5日間連続で按摩Aの鍼治療は続いた。ところが、5日目に打った鍼がひどく痛む。以来、按摩Aは姿を現さなくなった。

鍼を打った箇所からはジクジクと水が出るようになり、新左衛門も立腹。12月20日の夜になって、おもてを通る按摩の笛の音が・・・。この按摩(按摩B)をつれてきて治療にあたらせるが、ひどい痛み。

按摩B[痛いといってもたかが知れておりますが、貴方のお脇差しでこの左の肩から乳の処までこう斬り下げられました時の苦しみはこんな事では有りませんからナ」

新左衛門「エ、ナニ」

と振り返ってみると、按摩Bは宗悦であった。新左衛門はゾッと総毛だち、そばにあった一刀をとって宗悦に斬りつけると、宗悦ではなく奥方であった・・・。

奥方は病死ということになり、翌年の冬。本所北割下水(ほんじょきたわりげすい)に座光寺源三郎という旗本があり、これが女太夫のおこよという者を見初め、浅草竜泉寺前の梶井主善という易者を頼み、その家を里方にして奥方に入れたことが露見。ご不審がかかり、家来ともども召し捕り吟味中、深見新左衛門、諏訪部三十郎という旗本の両家は隔番で宅番を仰せつかった。諏訪部三十郎が宅番の11月20日の晩、新左衛門は自らの屋敷で酒を飲んでいると、庭の植え込みのところに痩せた不気味な坊主が現れた。「狸の所為(しわざ)か」と斬りつけると、一段の陰火が生け垣を越えて隣の諏訪部三十郎の屋敷へ落ちた。すると、その翌日から諏訪部三十郎は病気となった。新左衛門は一人で座光寺源三郎宅の宅番を勤めていると、ある晩、梶井主善がおこよ、源三郎を連れて行こうと同類を集めて、抜身のヤリで押し寄せてきた。役柄上、捨て置かれない新左衛門は一刀を取って斬り掛けるも、多勢に無勢で殺されてしまった。

深見家と座光寺家は改易、諏訪家は百日の間、閉門を仰せつけられるという騒ぎに。お熊は産み落とした女児を連れて深川の網打場へ引き込み、門番の勘蔵は新吉を抱いて大門町の知り合いのところへ貰い乳をして育てていくという情けない成り行きに・・・。

そこへ深見家の総領である新五郎が戻ってきた。新五郎は家出をした後、下総の三右衛門のところへ厄介になっていたが、淋しい田舎暮らしは性に合わず、詫び言をして屋敷に戻ろうとしたところであったが、両親は非業の死を遂げ(母親は父親に斬殺されたことをなぜか知らされている)、深見家は改易。「今更世間の人に顔を見られるのも恥ずかしい、もうとても武家奉公も出来ぬからいっそ切腹致そう」。青松院の墓所で腹を切ろうとしているところへやってきたのが谷中七面前の下総屋惣兵衛という質屋の主。新五郎を優しく説得し、面倒をみることに。

新五郎は人柄もよし、御年21歳で読み書き算盤も上手く、愛想も良い。新五郎は奉公人として惣兵衛の厄介になることに。この家には中働きの女中として皆川宗悦の次女・お園も厄介になっていた。新五郎とお園はお互い仇どうしでありながら、お互いそのことは知るよしもなし。柔和な好い女であるお園に新五郎は「ああいう女を女房に持ちたい」と惚れてしまう。お園の方はというと、若いのに堅いところがあり、新五郎の熱烈なアプローチにも柳に風と受け流してしまう。これには惣兵衛も妻のきわもすっかり安心して、お園が感冒(かぜ)で寝込んだ時に、新五郎が女中部屋でお園の看病をすることを認める始末。

ある冬の夕飯時。香の物がないといって、たすきをかけてお園が物置へ香の物を出しにいったところを新五郎が待ちかまえており、お園を誘う。お園は看病をしてもらった恩があるため、無碍にもできず、新五郎に引き寄せられる。

お園「アレ新どんお止しよ」

新五郎「此方(こっち)へお出で」

お園「アレ新どん、お前気違じみた、お前も私もしくじったらどうなさる」

もがくお園を新五郎は無理無体に口を押さえ、夢中になって押さえると、お園がウーンと身を慄わして苦しみ、パッと息が止まったから驚いた。お園の背中には押切という刃物がつきささって血だらけになっていた・・・。動転した新五郎は持参した大小を取り出し、店にあった百金を盗み取って逐電。奥州の仙台侯のお抱えになっていた剣客・黒坂一斎のところで剣術の修行に入り、身を潜めることに。

頼みの黒坂一斎が亡くなると、新五郎は故郷が恋しくなり、もう2、3年も経過しているから大丈夫なのではないかなどと考えているうちに、胸に浮かんだのが勇治という元・屋敷の下男。たしか本所松倉町に住んでいるはずなのでこの者を尋ねることに。細い横丁へ曲がりに入ると、あとからパラパラパラと5、6人の者が駆けてくる。これは手が廻ったか、しくじったと思い振り返ると捕り物の様子。あわてて荒物屋に飛び込むとその店の女は驚いた。事情を話すと、ここは松倉町で、女は勇治の娘で春といい、幼少の頃の新五郎を覚えているという。勇治は前年に亡くなったのだという。新五郎を親切に手当をし、大小は風呂敷に包み箪笥へ入れて錠をかけ、着替えを用意。酒の仕度をし、鰻を注文してくるので留守番を頼まれるが、実はこの女、新五郎が来たらこれこれと亭主に言いつけられていた。亭主は石河伴作という旦那衆の手先で、森田の金太郎という捕り物上手。かねてから網を張って待っていたところだった。刃物はちゃんと箪笥の中へ始末してあることを聞き、それではと半纏を引っかけて鰻屋の姿で金太郎が新五郎のところへ。

すっかり油断していた新五郎。いきなりの「御用だ!」に事態を察知。一目散に逃げるが、板塀から飛び降りたところで、下に押切という刃物が置いてあり、土踏まずのところを深く切り込んでしまった。これには新五郎も観念。この日は11月20日で、お園の三回忌の祥月命日であったのも何かの因縁か・・・。 

以下、その3へつづく・・・


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「真景累ヶ淵」登場人物とあらすじ(その1) [落語]

それでは早速、「真景累ヶ淵」のあらすじをご紹介してまいりたいと思います。「牡丹燈篭」の時と同様に、登場人物、あらすじ、という形式で記述していきたいと思います。

1.発端~宗悦殺し

皆川宗悦(根津七軒町の鍼医で高利貸)

志賀(宗悦の長女)

お園(宗悦の次女)

深見新左衛門(小日向服部坂の旗本)

その奥方(新左衛門の妻)

三右衛門(深見家の下男)

上方者(江戸某所の長屋の住人)

お鶴(上方者の妻)

家主女房(上方者が住む長屋の家主の妻)

甚太(上方者が住む長屋の住人で遊び人)

○(甚太の相方の男。名前不詳)

源八(上方者が住む長屋の住人のひとり)

△(同上。名前不詳)

あらすじ

根津の七軒町に住む皆川宗悦という鍼医(要するに盲人)は、50歳を超えてから女房と別れ(死別か離婚かは不明)、2人の娘との3人暮らし。姉の志賀は19歳、妹の園は17歳。宗悦は少しずつ貯めた金で高利貸しを副業にしていた。

安政2年の12月20日の午後、宗悦は何軒かの督促に出掛けるという。 今から出掛けると帰りはかなり遅くなりそうなことや、とても寒い日だったので、2人の娘は心配で明日にしなさいと勧めるが、小日向の殿様が「ずるい」ので、早く行きたいのだという。

この小日向の殿様は、深見新左衛門といい、小普請組で、至って貧乏なお屋敷に住んでいた。 奉公人は少なく、女中の役は奥方がつとめていた。宗悦が訪ねた時、殿様は珍しく在宅で、酒を飲んでいるところ。機嫌はよさそうだったが、宗悦が借金の督促に来たことを説明すると無い袖は振れぬからもう少し待って欲しいという。しかし、この借金はすでに3年越しになっているらしく、宗悦も引き下がらない。「私はこういう不自由な身体で根津から小日向まで、杖を引っ張って山坂を越して来るのでげすから・・・」、「天下の直参の方が盲人の金を借りて・・・馬鹿馬鹿しい・・・」と大声になっていく。

新左衛門:「このたわけめ、何だ、無体の事を申さば切り捨てたってもよい訳だ」

宗悦:「さア切るなら斬って見ろ」

新左衛門:「ナニ不埒な事を」「この糞たわけめが」

峰打ちのつもりだったが、あやまって宗悦を肩先から深く斬りつけてしまった・・・。 

この一件が表向きになるとまずいと考えた新左衛門は宗悦の死骸は油紙でしっかり二重に包み、封印をつけることに。下男の三右衛門に葛籠を買いに行かせ、そこに宗悦の死骸を包んだ油紙を積んでどこかへ捨ててくるようにと命じる。三右衛門には手間賃に十金を渡すので、そのまま故郷の下総へ帰れという。ただし、本件が漏れたら、貴様の口から漏れたものと思い、尋ねだして手打ちにするからそう思えとのこと。

仏の入った葛籠を背負うのは気味の悪いもので、三右衛門は淋しいところを歩くのはこわいので、にぎやかなところばかりを歩いている。この調子なので、どうしても捨てることができないでいたが、どこをどう歩いて捨てたのか、三右衛門は下総へ帰りついた。

葛籠は根津七軒町の秋葉の原に置かれていた。この葛籠をめぐって、近隣の長屋の住人(上方者の夫妻)、家主夫妻、居候たちの間で滑稽な争奪戦が行われる。葛籠の中身はどんなお宝かと期待をふくらませていると、なんと死骸が・・・。娘のお園が父・宗悦の死骸であることを確認。これが怪談の発端。

その2へつづく・・・。


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「真景累ヶ淵」登場人物とあらすじ(その0) [落語]

夏と言えば怪談噺。という訳でもないのですが、「真景累ヶ淵」の登場人物とあらすじについて書き綴っていきたいと思います。この噺の原作は「牡丹灯篭」と同じ三遊亭円朝。「牡丹灯篭」も長い噺ですが、「真景累ヶ淵」はさらに長い噺で、登場人物の人間関係も非常に複雑です。

「牡丹灯篭」については、以前、当ブログにて、採り上げたことがありました。その時にも書いたとおり、私が円朝モノにはまったのは今から約10年前。東京勤務時代に、通勤の満員電車内で読む文庫本を神田の古書店で探しているときに、たまたま見つけたのが岩波文庫版の「牡丹灯篭」でした。そのあまりのおもしろさに、感動で震えた覚えがあります。続いて読みたくなったのが「真景累ヶ淵」で、同じく岩波文庫版で見つけることができました。ただし、かなり古い本で、活字も小さく、旧かなづかいで非常に読みにくかったため、一日に読み進むスピードは「牡丹灯篭」に比べてかなり遅かったと思います。その分、じっくり、味わいながら読み進むことができ、続きを読むために、次の日の通勤時間が待ち遠しいという日々を送っていたのが懐かしい思い出です。

当ブログでも、「牡丹灯篭」につづいて、すぐに、「真景累ヶ淵」の紹介にとりかかりたかったのですが、何しろ大作で、作業的にとても大変なので、踏ん切りがつかずに今日まで至ってしまったというわけです。何日かかるか分かりませんが、少しずつ、進めてまいりたいと思います。参考書籍は岩波文庫「真景累ヶ淵」2007年改刷版を使用します。約50年ぶりの改刷版で、活字も大きく、仮名遣いも大変読みやすくなっており、助かりました。その分、ページ数は1.5~2倍近く分厚くなっていますが・・・。

三遊亭円朝作「真景累ヶ淵」

主要登場人物:

皆川宗悦(根津七軒町の鍼医で高利貸)

豊志賀(宗悦の長女)

お園(宗悦の次女)

深見新左衛門(小日向服部坂上の旗本)

深見新五郎(新左衛門の長男)

深見新吉(新左衛門の次男)

三右衛門(深見家の下男)

勘蔵(深見家の門番)

お熊(新左衛門の妾)

下総屋惣兵衛(谷中七面町の質屋の主)

お久(小間物屋・羽生屋三五郎の娘)

土手下の甚蔵(羽生村のバクチ打ち)

三蔵(羽生村の質屋の主)

お累(三蔵の妹)

惣右衛門(羽生村の名主)

お賤(惣右衛門の妾)

惣次郎(惣右衛門の息子)

惣吉(惣次郎の弟)

お隅(惣次郎の嫁)

安田一角(横曾根村の剣術家)

花車重吉(元・惣右衛門の使用人で関取)

山倉富五郎(元・座光寺源三郎の用人)


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柳家喬太郎~独演会~ [落語]

昨夜(2/10(火))、柳家喬太郎独演会に嫁さんと2人で行ってまいりました。

喬太郎師匠は東京の人気者ですが、岡山市での独演会は昨年に続いて2回目とのこと。実はこの喬太郎師とは我が家ではちょっとした因縁があります。それは東京勤務時代に家族3人で行ったこども寄席での出来事。詳しくはこちらをご覧下さい。

柳家喬太郎-こども寄席

グズる娘を抱きかかえて、ロビーへ出た嫁さんに対し、私はそのまま喬太郎師の「母恋いクラゲ」を観て笑っていたということで、以来、私は家族から、悪く言われ続けていたのです。「私も観たかったわよ!!」という嫁さんの念願が叶った今回の岡山公演でありました。

平成27年2月10日(火)、18:30開演

於、岡山市民文化ホール

「柳家喬太郎~独演会~」

開口一番:柳家喬太郎「子ほめ」

落語:柳家喬之進「棒鱈」

落語:柳家喬太郎「夫婦に乾杯」

お仲入り

落語:柳家喬太郎「錦木検校」

緞帳が開くとめくりには「柳家喬太郎」とあり、開口一番でいきなり喬太郎師が登場。自ら前座役をつとめるという趣向。前座らしく「パァパァ」しゃべって下がったが、「どうみても半分」のところでサゲずに、「竹の子や・・・」の下の句でサゲるというものだった。

続いて今春の真打昇進が決まっているという喬之進さんが登場。昇進後は柳家小傳治を襲名するのだという。「ただ今は前座の『喬太郎君』で、このあと『喬太郎師匠』が上がります」と言って笑わせる。ネタの「棒鱈」は、さん喬師匠直伝なのだろうか?

そして再び喬太郎師匠が登場。長いマクラが実に楽しい。海外旅行はあぶないので落語会にいきましょうという。寄席とか落語会の会場がいかにテロと無縁であるかという話の持って行き方が妙に可笑しい。高座からは客席がとてもよく見えるのだという。たとえばあのお客さんはご夫婦でとか、こちらは若いカップルだとか・・・。そして、何かしゃべっているお客さんがいて、会話は聞こえないのに、表情や口の動きで何をしゃべっているのかが分かったりするのだという。その様子を再現したのが大爆笑で、そこから新作落語へ。10分程度の短い噺だったが、可笑しかった。嫁さんも大笑いしていた・・・。

休憩のあと、またまた喬太郎師匠が登場。古典のようだが知らない噺。入り口にこの日の演目が書いてあり、「錦木検校」とあった。喬太郎師匠が発掘した古い噺なのかもしれない。

新作から古典までレパートリーが広く、どちらも独特の個性がたまらなく可笑しい喬太郎師匠。岡山でその高座を楽しむことができた。そして、何より嫁さんが満足してくれて、我が家の因縁も解消。実にめでたい日となったのでありました・・・。


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新宿末広亭12月中席 [落語]

神田須田町の連雀亭の後は一路、新宿末広亭へ。都営新宿線・小川町駅から1本で新宿三丁目駅まで行けるというアクセスの良さ。こういう交通手段の選択ができるようになったのは土地勘のおかげで、以前の私ならJR中央線で向かったところ。しかし、JR新宿駅から末広亭までは意外に距離がある上、ものすごい人混みの中を突っ切る必要があり、結構時間がかかっていた。2年弱の東京生活で身に付いた数少ないノウハウが地下鉄の乗りこなし方だったように思う・・・。

平成26年12月19日(金)

新宿末広亭

昼席(途中入場)

桂小文治「七段目」:鳴り物入りの大熱演

北見伸&スティファニー(小泉ポロン):ポロンさんに「目が合いましたね」と言われてしまったw

柳家蝠丸「仙台高尾」:地噺。途中まで。

お仲入り

三笑亭夢吉「宗論」:初聴きの「二つ目」さん。食いつきに抜擢。

東京太・ゆめ子:見るたびに進化されていてビックリ。よく受けていました!!

笑福亭福笑:上方交替枠。今年1年を振り返るネタで大爆笑。

桂竹丸(桂伸治の代演):この日は東京落語会との掛け持ちか?西郷隆盛の銅像のネタで爆笑。

ボンボンブラザーズ

三遊亭遊雀「死神」(桂文治の代バネ):「死神」は暮れの噺だったのだと認識。しかし、この噺でこれだけ笑いを取るとは凄いと思いました。こうして、昼席は大いに盛り上がってお開きとなった。

夜席

短い休憩のあとすぐに夜席がスタート。昼席からのお客さんも結構残っているようだったが、昼席と夜席でこうも雰囲気が変わるものかというくらい客席が重たい・・・。

春風亭かん橋「寿限無」:当代・柳橋師匠のお弟子さんとのこと。

春風亭柳若「熊の皮」:連雀亭との掛け持ち。両親を前にしての高座のやりにくさというマクラが何度聴いても可笑しかったが・・・。

新山真理:座り高座になっていた。芸協の紹介を中心に短時間で下がった。

春風亭笑好「雑俳」:恐らく初聴き。由緒ある名跡を継いだとのことだが「笑好」状態から抜け出せず・・・。

春風亭鹿の子「静御前」:初聴き。美人だという印象が強すぎたためか、噺が頭に入ってこなかった。電車での化粧姿の模写を大熱演されていたが、やや空振り。この日のお客さんにはたんたんとネタを進めた方が正解だったかもしれない。でも、注目していきたい噺家さんだと思った。

宮田陽・昇:テンポ良く、客席を盛り上げる。この日の夜席はこの2人のお陰で助かったと思う。

春風亭柳太郎「大安売」:前座さんの時に狸札をよく聴かせてもらった師匠。マクラが早口すぎて客席の食いつきが今いちと感じた。色々とくすぐりを入れるのがだが、客席に向かって「大丈夫ですかぁ~?」と聞く始末。この日の若手出演者に共通して感じたことだが、皆、全力投球しているのは伝わってくる。しかし、笑わせようという意識が強すぎて空回りしていなかったか。そして、駄洒落落ちで客席の反応が悪いと、「ついて来れてます?」のような一言が入る。こういうなんでもないような一言が、「受けないのは客のせい」と言っているようで、不満に感じられた(柳太郎師匠の高座だけのことを言っているのではありません)。「大安売」のネタに入ってからは安定して笑いを取っていた。

三遊亭左円馬「掛け取り?」:ヒザ隠しを使っての高座。この師匠との相性は悪く、漫談が多かったが、この日は落語をやってくれた。凄く良く、客席との相性も抜群の高座だったように思う。何より声が心地良い。借金取りの噺なのだが、「掛け取り」のようでもあり、もしかしたら別の噺かもしれない。

北見マキ:ヒモで両手を縛らせてのマジックは、客席前方からでも見破られない不思議さ。

三笑亭茶楽「紙入れ」:ここから芸協の看板が続く。その日の高座で何を演るか、これでも無い知恵を絞って色々考えているんだとか。客席に若い女性が多いので「間男」の噺を選択w

神田松鯉「天野屋利兵衛~雪江茶入れ」:名人話芸を堪能。

お仲入り

春風亭笑松「壺算」:夜席も食いつきに「二つ目」さんが抜擢されていた。こうしてみると小柳枝一門は大所帯だと認識。初見の若手を今席でまとめて拝見することができた。みなさん一人ひとりがこれからの芸協を支える貴重な人材になっていくんだと思う。期待しています!!

翁家喜楽・喜乃:スリル満点の高座にも安定感。

春風亭柳之助「荒茶」:この師匠も初見。たしかに西郷隆盛の銅像に似ている。しかし、顔色のところで笑いが薄かったのは、昼席で竹丸師匠のネタとかぶったからだと思った。「荒茶」は「本膳」とよく似た噺。

春風亭昇太「リストラの宴」:真打交替枠。これは良い工夫だと思った。なかなか寄席で見られない人気ものの出演が可能になる。客席がひっくり返った。マクラでのハチミツはなぜ腐らないのかという話も、1つ前の「荒茶」を受けた当意即妙の可笑しさで、このあたりも寄席ならではの楽しさ。

桧山うめ吉:しっとりと。

春風亭小柳枝「二番煎じ」:鯉昇師匠の「二番煎じ」が小柳枝師匠から、そして、小柳枝師匠は先代からの直伝だったはず。貴重な高座を拝見できラッキーだった。


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