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「真景累ヶ淵」登場人物とあらすじ(その10) [落語]

10.お隅の仇討ち

登場人物:

お隅(惣次郎の嫁)

花車重吉(元・惣右衛門の使用人で関取)

母(惣次郎と惣吉の母)

惣吉(惣右衛門の次男)

多助(惣次郎の家の奉公人)

山倉富五郎(元・座光寺源三郎の用人)

弟子衆(花車重吉の弟子たち)

安田一角(横曾根村の剣術家)

麹屋の亭主

あらすじ:

花車の来訪に惣次郎の母親もお隅も多助も皆喜んだ。花車は法恩寺村で田舎相撲の場所を開こうとしていたところにこの騒ぎとなったが、訳あって姿を現さなかったのだという。お隅から惣次郎殺害の経緯を確認した花車は、富五郎という男が一緒だったことを知る。富五郎は外出中だったため、それならと、殺害現場で拾った惣次郎の脇差しを包みから取り出した。富五郎の証言では惣次郎は脇差しで斬り合ったことになっているが脇差しは松ヤニで抜けなくなっている。また、主を残して富五郎だけが逃げてきた点からも、富五郎が怪しい。安田一角に鼻薬を嗅がされて、惣次郎殺害の手引きをしたに違いないとにらむ。

花車「こうしておくんなさい、私(わし)は黙って帰るが、富五郎が帰ったら、今日花車が悔やみに来て種々(いろいろ)取り込んだ事があって遅くなった、就いては他(ほか)へ二百両ばかり貸したが、どう掛け合っても取れないから・・・、もし富五郎さんが間へ這入ったら向こうの奴も怖いから返すだろう、もしお前の腕から二百両取れたら半分は礼に遣るが、どうか催促の掛合に往ってはくれまいかと、花車が頼んだが行ってやらんかといえば、欲張っているからきっと遣ってくるに違いない・・・」

富五郎をおびき寄せる算段がまとまり、花車は帰っていった。入れ違いに戻ってきた富五郎に、母親が貸金の掛合の件を説明すると、

富五郎「なに直ぐに取って上げましょう、造作もありません、百両・・・百両・・・なアに金なんぞお礼に戴かぬでもご懇意の間でげすから直ぐに行って参ります」

富五郎はいそいそと花車のもとへ向かった。花車宅では2人の弟子がいて、もし途中で富五郎が逃げ出したら捕まえて取り押さえるという段取りになっていた。

花車「富さん、お前さんが供に行ったのだとねえ」

富五郎「さよう・・・。面部を包んで長い物をぶち込んだ奴が14,5人・・・、突然(いきなり)竹槍をもって突いてくるから、私も刀を抜いて竹槍を切って落とし、・・ちょんちょん切り合いました、すると旦那も黙っている気性ではないから、すらり引き抜いて一生懸命に大勢を相手にちゃんちゃん切り合いましたから、刀の尖先から火が出ました・・・」

花車「うんそうかえ、富さん、もっと側へお出でなさい、今日は一杯飲みましょう」

富五郎「それは誠に有難いことで、時に何かお頼みがあるという事で・・・」

花車「さて、富さん、人と長く付合うには嘘を吐(つ)いてはいかないねえ」

富五郎の説明は全部嘘だと言われ、びっくり驚く富五郎。

富五郎「関取でなければ捨て置けぬ一言、手前も元は武士でござる・・・」

花車「嘘をつくない、正直に言ってしまいな、手前(てめえ)が鼻薬を貰って、一角に頼まれて旦那を引き出したといってしまえば、命ばかりは助けてやる・・・、何処までも隠せば、拠(よんどころ)なくお前(めえ)の脊骨をどやして飯を吐かしてもいわせにゃならん」

富五郎「これはどうも怪しからん、関取の力で打たれりゃア飯も吐きましょうが、ど、どういう訳で、怪しからん、なな、何を証拠に」

花車は惣次郎の脇差しを取り出した。抜けない脇差しをどうやって抜いたのか、鞘ごと切り合ったとしてもどうやって火花が出るのか。花車は富五郎の片手を取って押さえつけ、拳を振り上げる。

富五郎「アア痛うございます・・・、もうこうなれば包まず申します。申しますからお放し下さい」

花車「いってしまえばそれでよい・・・、さア残らずいってしまえ」

富五郎も観念をしていっそ白状しようかと思ったが、そこは悪才に長けた奴で、花車が手を放したスキに、側の火鉢にかかっていた大薬缶をひっくり返すと、ぱっと灰神楽が上がり真っ暗になった。富五郎も悪運の強い奴で、表へ逃げれば弟子たちに取り押さえられるところを裏口から逃げ出し、畑を踏んで逃げたの逃げないの、一生懸命になってドンドンドンドン逃げたが、羽生村へは行かれないため安田一角の処へ駆け込んだ。

富五郎「ハ、ハ、先生先生・・・水を一杯頂戴」

安田一角「なんだ、・・・どうした」

富五郎は一部始終を説明し、逃げるための路銀を2、30金拝借したいと言う。そして、一角もここを早く逃げた方がよいと促す。安田一角は落ち着いたもので、常陸の大方村に弟子があるからそこへ隠れておればよかろうと、手紙を一本書いて路銀とともに富五郎に渡した。富五郎はそれをもって常陸へ遁走。安田一角も後を追うように逃げ、2人は行方知れずとなった。

花車「残念なことをしました、これこれこれで押さえた奴を逃げられました」

お隅も母も残念がって嘆いたが致し方なし。翌月の10月になると、「何事があっても手紙さえ下されば直ぐに出てきて力になりますから」と言って花車は江戸へ戻っていった。跡方は10歳の惣吉とお隅に母、番頭の多助という顔ぶれで、何となく心細い。

11月3日のこと、空は雪催しで曇り。筑波下ろしの大風が吹き立てて身を裂かれるほどの寒さ。お隅が着物を着替え、乱れた髪を撫付けて小包を持ってきたので、

母「このまア寒いのに何処へか行くかイ」

お隅「はい、改めてお願いがござります。不思議なご縁で、水街道からこちらへ縁付いて参りましたところが、旦那様もああいう訳でおかくれになりました。・・・こうなって旦那のない後は余計者で、かえって厄介者になるばかりでございますし、江戸には・・・親類でもございますから、どうか江戸へ参りたいと思いまして、私もべんべんとこうやっていられません。今の内なら、どうか親類が里になって縁付く口も出来ましょうと思いまして、・・・どうか親子の縁を切って、・・・貴方の手で離縁になったという証拠を戴きませぬと、親類へも話ができませぬから、ご面倒でもちょっとお書きなすって、誠に永々お世話さまになりました」

母「それアは困りますな、・・・どうかまアそんなこといわずに、どうかお前がいてくれねば困りますから」

お隅「・・・今日直ぐと帰ります、水街道の麹屋に話をして帰りますから」

母「・・お前は今までまア外の女と違って信実な者で、おらア家へ縁付いても惣次郎を大切(でえじ)にして、姑へは孝養尽くし、小前の者にも思われるくれえで、さすがはお武家(さむれえ)さんの娘だけ違ったもんだ、婆様ア家(うち)は好い嫁え貰ったって村の者が誰も褒めねえ者はなえ、惣次郎が無え後も僅かハア夫婦になったばかりでも、亭主と思えば敵イ討たねえばなんなえて、さすが侍の娘は違った者だと村の者も魂消(たまげ)て、なんとまア感心な心がけだって涙アこぼして噂アするだ、今に富五郎や安田一角のゆくえは関取が探してどんな事をしても草ア分けても探し出して、敵イ討たせるってこれまで丹精したものを、お前がフッと行ってしめえば、あとは老人と子供で仕様がなえだ、ねえ困るからどうかいてくんなよ」

お隅「嫌ですねえ・・・はじまりは敵を討とうと思いましたけれども、・・・富五郎を押さえて白状さして、いよいよ一角が殺したと決まったら討とうというのだが、きっと富五郎、一角ということも分からず、それも関取が付いていればようございますが、関取もいず、してみれば敵が分かっても女の細腕では敵に返討になりますからねえ、・・・馬鹿馬鹿しゅうございますから、敵討はおやめにして江戸へ帰ります」

今までの貞操さは麹屋で客に対するのと同じで世辞であったのかと母は怒った。そこへ多助が、

多助「お隅さん待っておくんなさえ、お内儀さんあんた人が善いから直き腹ア立つがお隅さんはそんな人でなえ、・・・母様ア江戸を見たこともなし、大生(おおな)の八幡へ行ったことアなえという田舎気質の母様だから、一々気に障る事アあるだろうが、実はこういう事があって気色が悪いとか、ああいう事をいわれてはならぬという事があるなら、私(わし)がに話いしておくんなさえ、まア旦那があアなってからは力に思うのはお前様の外に誰もないのだ、惣吉様だってあの通り真実(ほんとう)の姉様か母様のように思ってすがっているし、・・・機嫌の悪い事が有るなら私にそういってどうか機嫌直してくださえ」

お隅「何をいうのだねえ、・・・私は仇討ちはできません、・・・それほどの深い夫婦でもありませぬからねえ」

多助「・・・義理も何も知んねえ狸阿魔め、・・・打(ぶ)つぞ、出るなら出ろ」

お隅「何だい狸阿魔とは、・・・手を振り上げてどうするつもりだい、怖い人だね、さ打つなら打って御覧、これほどの傷が出来ても水街道の麹屋が打捨っては置かないよ」

お隅はすでに麹屋の主人に掛け合い、向こう3年間は奉公をして、路銀を稼いでから江戸へ戻る算段なのだという。前金も借りてあり、すでに麹屋の奉公人なのだ。

母「もういいワイ、・・・離縁状書えたから持たしてやれ」

多助「さア持ってけ、この阿魔ア、これエ打てねえ奴だ」

お隅「有難い、アアこれでさっぱりした」

お隅が悪口をいいながら出て行こうとするところを惣吉が、

惣吉「姉様ア、お母様が悪ければ己(おれ)があやまるからいてくんなよ、多助があんなこといっても、あれは誰にもいう男だから、己があやまるから、姉さんいてくんなえ、困るからヨウ」

お隅「何だい、そっちへお出でよ、・・・お出でったらお出でよ。・・・今までお前を可愛いがったのもね、・・・お世辞に可愛いがったので、皆本当に可愛いがったのじゃアないよ」

お隅は惣吉を突き飛ばして出て行った。庭へ出て門の榎の下に立つと、ピューピューという筑波颪が身にしみる。

お隅「思い切ってあれまでにいってみたけれども、何も知らない惣吉が、・・困るといわれた時には、実はこれこれと打ち明けていおうかと思ったが、なまじいいえばお母っさんや惣吉のためにならんと思って思い切って、心にもない悪態をいって出てきたが、これまで真実に親子のように私に目を掛けておくんなすった姑に対して実に済まない、お母っさん、そのかわりきっと、旦那様の仇を今年の中に捜し出して、本望を遂げた上でお詫びいたします。ああ勿体ない、口が曲がります、御免なすってください」と手を合わせ、、耐(こら)え兼ねてわっと声の出るまに泣いていた・・・。

麹屋に戻ると、主人はお隅のために披露(ひろめ)の手拭いを染めて、残らず雲助や馬方に配った。「今までとは違って、お隅は拠ない訳があって客を取らなければならないので、皆と同じに、枕付で出るから方々へ触れてくれ」というと、この評判はぱっと広まった。今までは堅い奉公人で、殊に名主の女房にもなった者が枕付で出る、金さえ出せば自由になるというので大層客があり、近在の名主や大尽がせっせとお隅の処へ遊びに来た。しかし、お隅は貞心なので、能いように切り抜けては客と一つ寝をするようなことはしなかった。もとより器量は好し、様子は好し、その上世辞があるので、大層な客があった。このお隅の評判は常陸にいる富五郎のところにも届いた。

富五郎「しめた、金で自由になる枕付で出れば、望みは十分だ」

12月16日、ちらちら雪の降る日に山倉富五郎はやってきた。しかし、あまりに客が多いのでいくら待ってもなかなかお隅は来ない。代わりの女が時々来ては酌をしたり、女がいない時は手酌で飲んだりしているうちに、酒が相当廻ってきた。そこへようやくお隅が現れた。前とはすっぱり違った拵えで・・・。

お隅「富さん、・・・本当に能く来たね。・・・縁切状を取って出てきましたの、江戸へ行くにも小遣いがないもんだから、こんな真似をして身なりも拵えたり、・・・遂にこんな処へ落ちたから笑っておくんなさい」

お隅の境遇をすっかり信用した富五郎。以前、お隅を嫁に貰って江戸へ戻りたいと富五郎がいった話をお隅が持ち出し、あれが本当なら連れて行って欲しいといわれる。舞い上がって喜ぶ富五郎。路銀が必要だが、安田一角を騙せば百両くらい取れるだろうという。一角はどこにいるのかとお隅に聞かれた富五郎だが、それはなかなかいわない。

お隅「おかしいねえ、もう夫婦になってお前は亭主だよ・・・」

富五郎「こりゃア驚いた、・・・こりゃア有難い、それじゃアいおうねえ、実は私はお前にぞっこん惚れていたが、惣次郎があっては仕様がない、邪魔になるといっても富五郎の手に負えない、ところが幸い安田一角がお前に惚れているから、一角をおいやって弘行寺の裏林で殺させておいて、顔に傷を拵えて家へ駆け込んだが、あの通り花車が感づきやアがって、打つというからこっちは殺されては堪らぬから逃げてしまった。全く一角が殺したんだが、実は私がおいやってやらしたのだ」

お隅「・・・富さん、こうなるのは深い縁だねえ、・・・一角さんは何処にいるの」

富五郎「・・・笠阿弥陀堂の横手に交遊庵という庵室がありましょう、・・・」

お隅「本当に嬉しいねえ、真底お前の了見が知れたよ」

これから寝ようということになり、細廊下を通って離れに6畳ばかりの小間があり、そこに床がちゃんと敷いてあった。富五郎を仰向けに寝かせ、お隅は顔を見られるのは恥ずかしいからと掻巻を富五郎の目の上まで被せて、その上に馬乗りになった。

お隅「富さん、私はいうことがあるよ」

お隅は隠してあった匕首を抜いて、

お隅「本当に富さん不思議な縁だね、・・・惣次郎を殺したとは感づいていたけども、お前が手引きで・・・一角の隠れ家まで・・・こういう殊になるというのは神仏のお引き合わせだね、・・・こういうことがあろうと思って、私はこの上ないつらい思いをして、恩ある姑や義理ある弟に愛想づかしをいって出たのも全くお前を引き寄せるため、亭主の敵罰当たりの富五郎覚悟しろ、亭主の敵」

と富五郎の咽喉へ突っ込む。天命とはいいながら、富五郎はそのままうーんと息絶えた。お隅は「南無阿弥陀仏」と念仏を唱え、惣次郎の戒名を唱えて回向をする。そして落ち着いた様子で直ぐに硯箱を取り出し事細かに2通の書置を認めて、一通は花車へ、一通は羽生村の惣吉親子の者へ充てて、これまでの経緯を説明した。敵は一角と定まり、これから直ぐに隠れ家へ踏み込んで本望を遂げるつもりだが、もし返り討ちになることがあれば、惣吉が成人の上、関取に助太刀を頼んで旦那と自分の恨みを晴らして欲しいという内容だった。 

以下、その11へつづく・・・。


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